加賀友禅の人を魅了するあの美しい色合いは
大寒の冷水の中で誕生する。
今は昔ですが、60年程前、
てもかじかむ小雪の舞う寒い朝、浅野川大橋あたりで、
友禅の染のはいった絹布が
川の中で泳いでいるのをよく見かけたものです。
胸のあたりまでつながった長靴をはいて、ゴムの手袋をはめ、
染物屋のご夫婦が布を手で触っているのを橋の上からよく覗いておりました。
子供ながらに「綺麗」と「大変だな」と両方の感想を抱いたものです。
より美しく仕上げるには大寒の冷たい水が一番良いと知った時には
「良い物はそうそう簡単に手にはいない」
と思った事をよく覚えています。
その後、川の水がどんどん汚れ、水質が落ち、友禅流しは見る事
が無くなりました。
水質汚染が話題になり、行政、住民の協力もあり、
今は美しい川へと生まれ変わってきましたが、
友禅流しの風景は今はどうなったのでしょうか?
冷たい水の中で作業する方の辛さを考えると頭が下がるおもいですが、
今はなつかしい「友禅流し」の風景です。
浅野川の近くから犀川よりまだ南に引っ越ししたものの
あの頃の風景は年を重ねる毎に鮮明に思い出されます。
友禅流しは、友禅染の一工程です。
一言でいうと友禅の水洗いの事です。
友禅模様の描かれた絹布を、水にさらすと扶糊がはがれ、
糸目糊が落ち、鮮やかな友禅模様が浮き出てくるのです。
「暖かくなってから洗えば」と言った私に
「冷たければ冷たい程綺麗に仕上がる」
と冷たい水の中にじゃぶじゃぶと歩いていった後姿
とても力強かったのを覚えています。
職人魂だね!
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